黒澤尻見聞古記 25 浮浪女の物語

一、元祿十三年十一月廿七日之晩、平賀一郎右衛門殿へ參候哉女壹人參宿も無之御助け被下度と申參候、就て御代官所より御呼被成候に付而罷上申候へば、市郎右衛門殿被仰候は、右之女何方より參候哉、様子尋見候樣にと被仰御尋被成候へば、石卷より參候と申候。主人は何と申候と御尋被成候へばしかと不申候。何方の者にて何方へ參候やと御尋被成候へば、郡山町より西の者にて候と申候。親の名は何と申候と申候へば不存と申候。親類共近所の者共壹人も覺可申候間何と申候と御尋被成候へば、一切不存と申候

　就て一郎右衛門殿仰候は、とかく明日御馬御返りに候へば御用多く候間拙者尋申間敷故近所に宿仕候有之候樣に候間其者共に樣子しかと相尋右之女申度候事有之候はゞ、其方、取次申樣にと被仰候。拙者申候は委細相心得申候乍此上貴樣は一切御存知不被成分仕度しと申上、太右衛門孫作と申者共宿くれ申由承候に付右之女相渡し、五人組合の者に預り置申候。

　就て先太右衛門に申候は、右之女何方より參候而宿かし申候やと相尋申候。太右衛門申候は當月十日前に拙者女房の甥に孫十郎と申者(江釣子村孫右衛門子に御座候)當年相去村なしの木孫兵衛と申者之所に扶持喰に居候。然は右の女孫兵衛近所に泊り居候。就て右孫兵衛下人孫十郎申候は、此女南部郡山の者の由にて候間年若き女御堺目にて押へられ兎や角申候へば不びんに候間其方南部の者にて樣子も知り候間、和賀川迄送り越參候樣に申付和賀川迄送り越申候。久々不參候間、それにて參候と孫十郎申候。さればあとより右女參候。太右衛門申候は何方より參候と申候へば、郡山へ參候あしあぶらせくれ候樣に申候、成間敷と申候へば甥の孫十郎申候は何そ子細無之女に御在候。和賀川こぎ參候へば足冷たく候間、少し置候へても不苦候。前の通旦那申付に付、拙者送り參候と孫十郎申候。さては子細なき者かと存じ火にあて申候。然は朝めし最早出し食べ候へば、右の女めし壹盃くれ候へと申に付ふびんと存じ、めし壹盃くれ申候。然は孫十郎は戻り申候。右の女も可罷越と仕候處に近所の孫作拙者所へわらうちに參候、右の様子承り孫作申候は、拙者も前ろう人仕候間身に覺御座候。何程難儀仕者に候。ふびんに候間晩は宿くれ可申候。若又女房にもほしきと申者候はゞゑんにも付くれ可申候間、參候樣にと申戻申候間、即時女房迎に越つれ立參候。孫作所に二晩泊申候と太右衛門申候。拙者孫作に申候は後先不知女何とて其方太右衛門所よりよび留置申候哉と尋申候へば孫作申候は拙者も手前不叶候へば前ろう人の様に世間あるき候へて、何程難儀仕候覺御座候に付ふびんと存留置申候と孫作申候。其後權七と申者とつれ立笹間村一郎右衛門と申者へ參候と申候。其女に拙者尋申候は權七と申者とつれ立笹間村へ何とて一郎右衛門所へ參候と尋申候へば、女申候は權七と申者女房可仕と申に付女房に罷成候。笹間村へ參り候樣にと權七申候に付、御分池の内市郎右衛門所へ參申候。拙者尋申候は左樣に候はゞ、何とて其方壹人又爰元へ參候と尋申候へば、女申候、市右衛門權七二人共にばくち打に罷出申候間、二人共二十日計過候へ共壹人も戻不申、然者夫婦之約束仕候へても拙者壹人不知所に居候てもかんてん無之、めし食ひ申樣も無之候に付、又此方へ參候と申候。拙者申候は其方年何程名は何と申と申候へば、年は二十二に相成り、名はおぼと申候。扨又何方より參り何方へ參度く候哉と尋申候へば、仙臺の方より參り候郡山と申所之者に候間、郡山へ參度と存此方へ參候へ共、花卷と申所之近所迄參候へ共、山など有人達にて御座候而、人もけんとにて惡敷候間、又相去村へ參度と申候。拙者申候は仙臺は何村のたれ所より參候と尋候へ共、たゞ仙臺の方より參候と斗申候。然は郡山生所に候はゞ町より參候哉在郷より出候哉と尋候へば、町より西の者と申候。扨ては何村の親誰、親類の内壹人も知可も、又は近所の者も壹人も知可申候間、爲知候樣にと申候へば、親も親類も近所の者も壹人不存と申候。後先不同にて何方之者共知不申候。見方には何方之者に御座候哉。先大方仙臺領の者と見へ申候。毎々宿仕候事に候間太右衛門孫作預り置、尤五人組合之者共にも渡し預け置申候。