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岩手県北上市の某所より

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黑澤尻見聞古記 序

昭和十七年一月刊行

黑澤尻見聞古記

小澤家藏版

          序
 歴史に興味を有つた私の父の記すところに據ると、黒澤尻小澤一族の祖先に小澤兵部といふ人があり、江刺郡霍上衣城に住んで居つたが、葛西氏の没落と共に南部利直公に仕ふることとなり、和賀郡北上川岸の隠居屋敷に移住し、慶長六年岩崎城の戦に出陣して、伊達の臣鈴木將監と夏油川原に戦ひ將監遂に戦死したが、兵部も討死するに至つた。兵部の子に五郎三郎といふ人があり、川岸の肝煎役、今でいへば村長の役を勤めて居つたが、慶長九年八月南部藩にて黒澤尻町を設くることとなり、抜擢されて其検斷役を仰付つた。黒澤尻本町の出来た頃のことは此記録にも記されて居るが大きな萱の繁つた谷地であつた處を切り開いて間口八間づつの屋敷を仕切り、戸敷が七十四軒あつたらしい。町の東西に細い裏路があり、一町位づつ隔てて「さいかちの樹」を植えて、其實を洗濯や、入浴に使ふことにしたといふことである。さういへば私共の幼い頃まではところどころに大きな「さいかちの樹」があり、甲蟲を捕つたことを覺えて居る。私の家の人口にも大きな「さいかちの樹」があり、其傍に銭湯があつたが、一町位北方の裏路にも、やはり大きな「さいかちの樹があり、そこには「上の湯」といふ錢湯があつた。昔は浴場のことを「どんぶり」といふたらしいといふ父の話であった。
 五郎三郎の子にも五郎三郎といふ人があり、二歳の頃父と共に黒澤尻に移り、大きくなって父の後を受けて検斷役を勤めた。本町北街道に松の樹を植付けたり、諏訪紳社を上野(わの)から今のところに遷座し、諏訪通の町を開いたりなどした。其次ぎに鬼柳村の及川助右衛門家から助七といふ人が養子に來たらしい。この人が平左衛門と名乗り此日誌をつけ始めたが、平左衛門といふ人が三代續いたらしい。初代平左衛門といふ人は此日誌にもみられるやうに黒澤尻町の開拓のために大いに盡すところあった。日誌は元祿六年から延享三年まで五十四年に亙り、平左衛門三代の手記であるが、茲に印刷に上せたものは其約三分の一で第二十九項までは初代平左衛門、
第三十項からは次ぎの平左衛門の筆に成つたと思はれる部分である。
 平左衛門三代の次ぎに庄次郎といふ人があり、検斷役時代の屋敷は今の警察署附近であったらしいが、此人は本町井筒屋孫兵衛の屋敷に移り、酒醸業を始めた。其子の五郎右衛門は元の後藤佐兵衛の家に住ひ、検斷役を勤め、掃月と號して俳句をよくした。其子の庄太といふ人は書をよくし、當地大官所の御物書を二十餘年勤め南部公より祿七十石をいただいて藩士に列し、傍寺子屋を開いて子女の教育に盡した。其の子荘次郎は即ち私共の父で、楢山佐渡に仕へ、明治元年の秋田戰争には風雲隊に加り、其後寺子屋の教育に従事し、更に黒澤尻に小學校が設けられるやうになつてからは其教師を勤めた。父が一人の啞兒の教育を試みて居つたが、今から思ふと相當苦心したものであつたらう。晩年家庭で有志に漢籍を授けて居たこともあつた。
 此記録によると、黒澤尻は南部藩の宿場として起り、次第に農村都市として發達するに至つたものであるが、町が始つてかち百年ほど經つた寶永二年の頃には未だ米が充分でなく、遠野まで米の買出しに行つたものらしい。今日では岩手縣屈指の米の産地であることを思ふと誠に隔世の感に堪えない。最近は岩手縣の中樞として次第に工業都市として發達する傾向が著しくなつたが、これは誠に欣ぶべきことであると共に町民各位の自重と協力を切望せざるを得ないところである。
 諏訪神託社と染黑寺は、黒澤尻町設立以前から存在して、黒澤尻の發達を永遠に観護つて居られるのであるが、將來も黒澤尻の産業を隆盛ならしひるために、其精神的推進力となり、町民の敬虔の心を深く培うに相違ない。見える活動は常に見えざるところに養ふところがなければならない。
 五人組制度の問題も、今日の隣組制度と比較して興味深いものがあり、名子制度のことも檢べてみたら東北の古い社會を識る助けとなることであらう。
 黒澤尻は南部藩南端の町であり、仙臺藩と接觸して居るといふ特殊な地位にあるところから、年若い娘が誘拐されて仙臺藩に逃げて行つたり、浮浪女が仙臺藩から此方に逃げて來たりする事件が起ることも藩堺の面白い現象だと思はれる。就中僧直心の娘の物語などは一篇の哀話として文學的に創作される價値かあるやうに思はれる。
 此記録を刊行することについては數年前から心掛けて居つたのであるが、實は讀解に少からず苦心したところ、幸、縣誌の調査に従事されて居る森嘉兵衛氏の好意により愈々望を果たすことを得たので茲に同氏に深く感謝の意を獻げる。
 近來黒澤尻に郷土研究が旺んになつたさうであるが、此古い記録も其参考資料になることが出來たなら、嘸遠い私共の祖先の人達も本望であらうと思はれる。一は郷土研究の助けとなり、一は祖先への囘向にもと思ひ、茲にこれを刊行することとした。

  紀元二千六百一年
  昭和十六年十月
                  東京市中野區高根町二八
                      小 澤  恒  一

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