盛岡市呉服町にあった赤澤號本店文化部による『岩手の温泉と名勝』(昭和9年11月10日発行)より『夏油温泉』の紹介文を。
夏油温泉
夏油川の水源地にあつて嶽温泉とも云はれてゐる。
現在の湧出口は大湯、新湯、目の湯、疝氣の湯、瀧の湯の五ヶ所あり、仙境の静養地である。
位置と交通 和賀郡岩崎村にあり横黑線藤根驛からも横川目驛からも行かれるが共に自動車便がない、藤根驛の方からなれば幾分近いが、それでも十八粁途中迄自動車を運轉する計劃がされてゐる。
旅館 今よりも十年前迄は合資會社組織で經營して居たが、現在では個人經營で六棟の浴舎があり、一日一人に付三十錢乃至四十錢で約十室を貸すことが出來得る樣設備がある。
他の多くの温泉と同じく薪炭代をとらぬから、最も經濟的な入浴が出來る譯で、客は主として秋田で、近來兩磐、膽澤方面からも相當あり、宿舎も新築の計劃中で大体一圓五十錢位で一泊出來る。
泉質と効能 泉質は單純泉で攝氏五十九度乃至四十五度、寄生蟲による貧血症、白血病及關節瘻麻質斯等に効驗があると謂はれてゐる。
また大湯より數町川上に奥の天狗の湯があり神經系統に効がある。
温泉を基點としての登山
方面-駒ケ嶽-經塚山-天竺山
往路。横黑線大荒澤驛に下車、『峠山』の東麓を南本内川の左岸に沿ふて小花(此間四千五百米)から左折して檜澤(間三千五百米)を遡り丸子峙を經て(此間二千五百米)「夏油温泉」に至る、此全行程十三キロ第一コースは此夏油温泉から標高一、〇三四の高地を經て(此間四千米)「駒ケ嶽」-一、一二九米-に登る。
頂上には國幣小社駒形神社奥宮鎮座する。第二コースは右へ和賀、膽澤の郡境の線を經て(此間三千五百米)「經塚山」-一、三七二米に至る。第三コースは同樣線上を更に右へ「此間二千米)郡境を膽澤郡若柳村寄となつてゐる。「天竺山」-一、三一八米-。第四コースは「天竺山」から右へ千五百米進むと、岩崎、湯田の村境の尾根を眞北へ(此間四千米)「牛形山」-一、三三九米に着く、
歸路。「牛形山」から夏油温泉を瞰下しながら三千米を下降するなほ餘裕あれば、牛形山から更に北上して村境の尾根を「鷲森山」-一、二〇七米-を踏破して夏油温泉に歸着することも出來る。但しこの分の行程六千五百米を餘分に費やさねばならぬ。
因に「夏油温泉」へ横川目驛から十七キロ、岩澤驛からは十六キロ五、陸中大石驛から十四キロ五となつて居り、本コースの大荒澤驛からは十三キロは一番捷路となつてゐる。此全行程約三十キロである。
以上。
北上の温泉は夏油のみ。
名勝はいづれまた。
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