「東北最短横断の横黒線」という記事

50年ほど前の雑誌記事に「東北最短横断の横黒線」というのがありました。
昨年、北上線の利用向上促進の話題が、市の広報にも載ってましたっけ。
で、以下。

東北最短横断の横黒線

その沿革と現況

　横黒線は，東北本線北上（旧名黒沢尻）と奥羽本線横手とを，奥羽山脈の中間で短絡する61.1kmの丙線で，他の横断線の花輪・陸羽東・仙山・奥羽の各線に比べて最も標高の低い（281m），輸送上好条件の線区である．

　横黒線の建設の経緯は，大正９年10月横手－相野々間，大正10年４月北上－和賀仙人間が開通したが，その後長らく工事が中断され，川尻－和賀仙人が昭和13年11月に開通して漸やく全線が完成した．そして39年10月湯田ダムの完成により線路の付け替えが行なわれ，開通時

の60.3kmが61.1kmに延びている．

　沿線人口は僅か５万人で，線内の伸びは期待できない．

　旅客列車は昭和37年にすべてディーゼル動車化され，仙台－秋田間にディーゼル急行１往復が設定され，その他の列車は線区内で12往復が運転されている．

　沿線の鉱業のため着発貨物は割合に多く，また標高の低いという輸送ルートとして好条件のため，貨物輸送は直通貨物も多く，28年に輸送力増強のため投入されたD60形式蒸機けん引（それまでは8620形式）による貨物列車が９往復（内４往復は補機付）も運転されている．最急こう配は磐車線と同じく20‰で，D60のけん引定数も同じく400トンである．然しながら線内の駅有効長が短かい（250m）のため，折角のD60形式の重連もフルに活用できない実状である．横手以南の奥羽線の輸送力が窮屈のため，秋田地区対関東の貨物の一部は横黒線経由を要請されている．

　線区内運転のディーゼル動車の基地は盛岡機関区で，他線区と共通運用され，横黒線分は一般形11両である．貨物用のD60形式蒸機は北上支区４両，横手機区４両と分散配置されている．

　標高の低いという有利な横黒線にとっての最大の悩みは冬季の積雪である．最大積雪記録は陸中川尻の3.90m最大降雪累計は黒沢の21.10mで，冬季の輸送確保は容易でない．

　直通貨物が多く，またディーゼル動車化されているのに経営成績は案外振わず，38年度の取扱収入3.13億円，純収入4.75億円，原価7.40億円，営業係数,156％で，充当人員は382名である．駅数は10駅で閉塞方式は通票閉塞式である．

沿線案内

　北上駅を発車したＤＣ列車は，左にD60形式蒸機の憩う北上支区を見て北進すると，間もなく東北本線から左に分れ，市街の北端を回って田園の中を西進する．殆んど直線の線路を快走して，江釣子・藤根をすぎやがて和賀町の中心地である横川目に着く．横川目を出て和賀川の清流を渡るといよいよ20‰のこう配になり，奥羽山脈が車窓に迫ってくる．和賀仙人を過ぎトンネルをくぐる毎に山谷は深くなり，最大の難所の延長1,514mの仙人トンネルに入る．ディーゼル動車はエンジンを唸らせて上っていくが，D60形式蒸機の重連仕業の苦労は並々でないであろう．漸やくにしてトンネルを抜けると急に視界が開け，大荒沢信号所に停車し交換列車を待つ．

　眼下には湯田ダムが満々の水をたたえている．湯田ダムは北上川支流の和賀川に建設された多目的ダムで，一名錦秋湖と呼ばれ，北上川の洪水調節を主目的とし，その他灌漑及び発電に利用されている．39年秋に完成し，水没補償も最大といわれ，横黒線も和賀仙人から陸中川尻まで5.3kmが付けかえられた．列車は面積6.3km2の湖岸に沿った断崖･絶壁の雄大な景色の中を右岸へ，左岸へと湖を渡って快走する．青々とたたえられた湖水に，工学の粋を集めた橋りょうが，或るは女性的に美しく，或は男性的に壮大にその影を落して，美観に一層の趣を添えている．特にその名の如く，秋の錦秋湖は素晴らしい.

　列車はダムエ事による線路変更のため新らしい駅舎になった陸中大石を過ぎ，強化された新線を一気に走るとこの線区の主要駅である陸中川尻駅に滑り込む．川尻駅はダイヤ構成上貨物列車の交換が多く，同駅の有効長延伸のみで輸送力が画期的に増強されるので，早期の改善が望まれている．附近には湯本温泉・湯川温泉あるいは土畑鉱山を控え，ダムのため水没した人家がその補償によって駅前に新らしい町を造っている．

　陸中川尻を発車した列車は，西へ鬼ケ洞川に沿って進み，なだらかな周囲の山を眺めてこう配を上りつめたところで秋田県に入る．列車はトンネルの殆んどない20‰の下り連続こう配を一気に下りて行く．沿線の人家は少なくみちのくの静かな旅にふさわしい景観である．やがて列車は約２時間で終点横手に到着である.

今後の計画

　横黒線が予定されている今後の改善計画は，次の三つが挙げられよ．

　第１は横黒線経由の仙台－秋田間のディーゼル急行増発である．現在仙台－秋田間には横黒経由の１往復，陸羽東線経由の２往復のディーゼル急行が運転されているが，年間通じて利用客が多く，高い乗車効率の実績である．所要時間は陸羽東線経由の５時間42分に対して，横黒線経由は４時間46分で約１時間も速いので，直通使命としては横黒線経由に軍配が上るわけである．現在の３往復もそろそろ増結余力を失いかけているので，増発は横黒線経由で来年度あたり具体化されよう．

　第２は老朽D60形式蒸機の対策と経営合理化を兼ねたディーゼル機関車化である．目下の計画はDD51形式大形ディーゼル機を，釜石線と共通運用として本年度下期に投入予定である．DD51形式の集約基地は釜石となる計画で，13年間にわたって横黒線で力闘したD60形式蒸機も残り僅かで北上・横手基地から姿を消そうとしている．

　第３は貨物輸送の増強策として，投入予定のDD51形式ディーゼル機の性能に合わせて（20‰こう配で500トンけん引可能）駅有効長を延伸することである．有効長の延伸は全駅を行なう必要はなく，とりあえず陸中川尻他２駅程度を行なえば現状輸送力は少なくとも50％以上増強できるであろう．