横黑線の概要
横黑線は東北本線黑澤尻より奥羽山脈を横斷して奥羽本線横手に通じ、岩手縣と秋田縣とを聯絡する主要線の一つである。
本路線は黑澤尻より起り和賀の平和街道に沿ひ進み、横川目より脊梁山脈の溪谷五十分の勾配を上り、和賀川を渡り岩澤に達す、それより本線最長の岩澤隧道を潜つて再び和賀川を渡り、著れたる仙人製鐵所々在驛和賀仙人に至る、これより和賀沿岸の風光を左右にして三度び川を渡り陸中大石、陸中川尻を經て秋田縣下に入る、黑澤より旭川の溪流に沿ひ勾配を下り、幾多の鐵橋を過ぎ奥羽本線横手に達するもので、この延長三十七哩五分。
沿道は殆んど山間にして繁盛の街衢は尠ないが至る處鑛物に富み、川尻附近には設備完全ならざるも湯川、湯本の温泉もある、又和賀川沿岸の風光は磐越西線阿賀野川のそれに彷彿として紅葉の勝地として遊覧の適地である。
横黑線は最初黑澤尻横手間の兩方面より起工され東横黑線は大正十年三月黑澤尻、横川目間、同年十一月横川目、和賀仙人間、同十三年十月和賀仙人、大荒澤間が開通し、西横黑線は大正九年十月横手、相野々間、同十年十一月相野々、黑澤間、同十一年十二月黑澤、陸中川尻間、同十三年十一月に至り大荒澤、陸中川尻間の開通によつて茲に東西横黑線の貫通を見るに至つたのである。
本線の全通は將來表日本即ち岩手縣方面と裏日本たる秋田縣方面との輸送上に至大なる變革を來すべく、從來盛岡、仙臺方面より横手、秋田地方へ達するには凡て靑森若くは羽東線経由であつたが、この線の全通によつて著しく距離の短縮となり、兩縣下の交通は益々密接頻繁となり、旅客の利便も尠なくないであらう。
茲に横黑線全通後に於ける東北本線と秋田、山形方面との間に於て短縮される距離と時間及び旅客の運賃を比較すると、盛岡、秋田間は陸羽東線廻りに比し一二八哩三分、約六時間三十二分を短縮し三等運賃に於て二圓五錢の減額、靑森廻りに比し一三一哩四分約六時間十四分を短縮し三等運賃ニ圓十二錢の減額、一の關、秋田間は陸羽東線廻りに比し七十三哩九分、約八時間二十一分を短縮し三等運賃に於て一圓二十六錢の減額となる、又盛岡より新庄以南山形、酒田方面としては二七哩三分、約二時間十八分の短縮となり三等運賃としては共に四十六錢の減額となる、以上の數字の示す岩手、秋田兩縣下交通の利便を増進するのは勿論靑森、宮城及び山形縣下の一部も之を利用し得るので、今後旅客移動の経路に大いなる變化を來すことであろふ。
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