此處に賽したならば川岸から北上川に架した六百六尺の珊瑚橋を渡つて立花山を訪はねばならない。
立花山とは北上川の東岸に連立する男山、國見山、珊瑚岳の通稱で、四面の眺瞰眞に壯大で脚下を洗う北江は和賀の奔流と合して一大深湍をなし、對岸黑澤尻の市甍を徹して兩羽分水嶺から北面して岩手、姫神の秀峯を數え、東方に双眸をて轉じ、三陸臨海の諸峯を収め得て一日の行遊に足らない思ひあらしめる。
此の自然の配妙を恣にする勝地を汎ねく天下に喧傳せしむべく和賀展勝會では山裾を繞る十餘丁の道路を整備しその兩側と山肌一帶を奥、中、前の三段に分ち櫻樹三千株を栽植して景趣を添え遊園地としての設備も着々完成しつゝあり一たび春光に惠まれ全山文字通り紅雲に包まれる艶姿は恐らく東奥に冠絶する秀景たり得るであらう。其他驛附近には黑澤尻柵址、川岸觀音、雷神社など探ぐるべき古蹟もなかなか多く、一日の巡遊に適し、旅館は驛前に南部ホテル町に野村旅館、古川屋、菊池屋、伊勢屋等があり何れも人力車が通ずる。土地の名物としては金山おこし、櫻羊羹、こがねもちなど有名で、土地豊穣な當地方は農産物を主要産物として年産額(米一二一、二一四石)麥(三五、八二一石)(大豆一四、四三〇石)等で林産物之に次ぎ輸出年額六百十餘萬圓に達してゐる。
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