黑澤尻を發して左折し町の北郊外を半廻すると廣々と展けた田圃の眞中を衝いて江釣子に着く。
江釣子村は南方に和賀川を擁し地勢平坦で水田に富み、恒産の大部は米(年産額五、餘石)及繭(年産額三、四〇〇貫)で林産物として數ふべきものはない。名所としては驛の西南五丁にして江釣子神社がある。
本尊は聖觀世音菩薩で今から約七百年前(嘉綠元酉年)三月十五日に陸奥街道なる阿長瀬の渡船場に於て土民の釣針に取付かせられて出現した尊體と傳えられ無邊の神通力は諸病快癒、安産に靈顯厚く近村の尊崇深い所である。旅館は驛附近に一軒あるが設備完全ではない。
江釣子からは横手へ通ずる縣道、平和街道の樹齢よく揃ふて見事な松並木が隣驛藤根を過ぎて横川目に至る間恰も行先しるべしと見える程、それは岩沼附近に於ける千貫松の長く續くよりもつと近く左窓に並行して一偉觀を呈する。
横川目は平和街道に沿ふた部落で西方各鑛山への日用品類供給地として又農産、林産品の集散地として重きを爲してゐる。主たる生産物としては(年産額)薪(二、五〇〇棚)木炭(三〇一、〇〇〇貫)用材(一六、一六〇石)米(六、七三五石)麥(九七六石)大豆(一、一三六石)蔬菜(三八、六二〇石)
驛から東八丁字門神に松笠と名づける奇形を呈する老松がある、その昔親鸞上人の法弟是信房が諸國巡脚の途次此處で晝食を採つた際、使用した松枝の箸を土中に挿入したのが成長したものであると謂はれる。
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